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2005年11月10日号
保険毎日新聞 代理店版 掲載論文
『マーケティング戦略としてのコンプライアンス』
赤塚 進
コンプライアンスの重要性が叫ばれて久しい。現時点においてどこの保険会社の
経営者に質問しても「コンプライアンスは我が社の最重要課題として取組んでい
ます」と答えるだろう。
にもかかわらず、今回発覚した明治安田生命の保険金不払い問題などが象徴する
ように、最も重視していることが一向に守られないのは何故なのだろうか。何故
企業不祥事はなくならないのだろうか。
それは経営・営業現場の人々にコンプライアンスについての本音の部分を聞いて
みれば明々白々だと思う。「コンプライアンスとは営業を阻害する大きな要素だ
から」という意識にあるに違いない。「コンプライアンスに一生懸命取組んでも
一文の得にもならない」いやもっと進んで「コンプライアンスとは営業上やっか
いなもの」という考えがはびこっているからなのだ。
私自身も営業現場に長くいたのでわかるのだが、私自身それに近い感覚を抱いて
いたし、そのような意識を誰もが少なからず持っていたことをよく知っている。
また仮にコンプライアンスに前向きに取組む経営者などがいたとしても、そこに
は「もし不祥事などがおきた場合にコンプライアンスにきちんと取組んでいた形
跡を残しておかなければより重い罰を受けるかもしれない」というような自己防
衛的動機で取組んでいる場合も多い。
本来のコンプライアンスは、顧客への正しく適切なサービスや情報提供がなされ
るためにあるものだ。守るべき最低限のルールであるはずだ。それが多くの場合
企業側から見て「面倒くさい事」「自己防衛的にやむを得ない事」になり下がっ
ているのである。これでは不祥事件が増えることはあってもなくなることはない
だろう。
今や消費者の保険会社に対する信用は地に堕ちている。数年前までの数々の保険
会社破綻に加えて、映画を地で行くような今回の保険金不払い問題。もともと保
険というものは、何も起こらないときにはそのありがた味を感じにくい特殊な商
品である。顧客は保険そのものや保険会社・代理店に満足するというよりも、営
業パーソンとの個人的関係によって満足感を得ている事が多いものだ。
保険会社・保険代理店等が今後生き延びて行くには、営業パーソンの魅力を上げ
ることはもちろんだが、その母体となる保険会社・保険代理店の魅力を上げてい
かなければならないはずだ。つまり組織としての信頼の回復が急務なのである。
そして保険そのものに対する信頼をできるだけ上げなければならないのである。
今の保険業界の業績不振はもちろん景気の影響もあるだろう。しかし最も大きな
理由は顧客から「君たちの事は信用ならん」という審判を下されているというこ
とを肝に銘ずる必要がある。今こそ顧客の信頼を回復するための施策をきちんと
実行しておかなければならない時なのだ。このあと景気が回復したとしても顧客
が保険に戻る保証はない。下手をすれば共済や民営化された簡保に既存の民間保
険勢力はさらなる打撃を与えられる可能性は大きいのだ。
では、一体どうすればコンプライアンスは徹底されるのであろうか。
先述したが、保険という商品はその使い心地のよさを日常的に感じてもらうこ
とはとても難しいサービスであり商品である。仮に他社より安い保険料であると
か良い利回りであるなどの保険を開発し販売できたとしても、その満足度は一時
的なものである。長続きはしない。であるから何かちょっとした不満足な対応で
もあろうものなら、すぐに他の保険に鞍替えされてしまう危険性が高いのである。
そこで今まで営業の阻害要因とまで考えられていた「コンプライアンス」を顧
客満足度向上・売上増強に有効活用してしまうという方法はどうなんだろうか。
思い切って「コンプライアンス」を自社のUSPとして掲げて、マーケティング
策の一環として組込んでしまうのだ。
つまり「コンプライアンス=売上げにならない」を「コンプライアンス=儲か
る」に変えてしまう。このようなパラダイムシフトを行うことで、コンプライア
ンスの促進→顧客信頼の回復→売上げの増加を一連のプロセスとして企業全体で
取組むことが自然とできるようになると考えるのだ。
具体的にはどうするのか。今更大きな文字で「我が社はコンプライアンスを大
切にしています」「我が社は絶対に過ちを犯しません」などど掲げたところで、
誰も信用しない。そうではなく、むしろ過ちをきちんと公表し、それに真摯に対
応している姿勢を見てもらうのである。「僕は完璧で一切過ちは犯さない」など
と言っている人間をあなたは信じられるだろうか。過ちは必ずある。少なくとも
犯す危険性は誰にでもある。そのことを正直に開示していくのである。
どういうことかと言えば、自社のパンフレット、ホームページ、セールスレター
などで徹底的に自社で起こった法令違反・規律違反事故のことを開示し、それに
どう対応したのかを明らかにしていくのである。できれば法令違反だけでなく
様々なクレームについても、徹底的にホームページなどで明らかにしていきたい。
そこでは謝罪も行うが、クレームへどのように対応したかということや今後の改
善点を記載することが最も重要である。まずはこのような行動を起こすことだけ
でも顧客はその企業組織の顧客への誠実さを感じ始めてくれることだろう。
このような開示を行っていくにあたっては、当然会社内で違反事故や苦情に対す
る改善への真剣な取り組みが必要にならざるを得ない。そうすると逆にその後は
同じ過ちを犯さなくなるのである。したがってコンプライアンスへの取組み効果
はスパイラル的に上昇して行くのである。
そういった変化にもっとも敏感なのは顧客たちだ。そのような姿勢に共感した顧
客と保険会社・代理店との関係は、今までの何倍のも強さと信頼感で結ばれ、契
約の継続・新規契約の獲得に他社との明確な差を生じさせるだろう。
コンプライアンスを自分の所属する会社の最大のUSPとしてお客さんにアプ
ローチする営業パーソンは、大きな信頼を即座に獲得できることに気づき、結果
として多くの契約をあげられるようにもなる。そうなれば、より一層コンプライ
アンスに力を入れようということにもなる。
まずは既存顧客にこれらの取組みについてメールマガジンやDMを通じて告知し
ていきたい。ホームページの閲覧回数を増やしていくのである。「様々な当社へ
の苦情や法令違反報告のページを作りました」と言えば、ほとんどの人が興味を
抱くだろう。人は他人の悪い話は大好きなのだ。とするとホームページ訪問客数
は飛躍的に伸びる。最初は既存客なので新しい顧客との契約には結びつかないが、
ホームページへのヒット回数が増えれば自然とグーグルなどの検索エンジンにも
載りやすくなる。そうなると新規顧客の獲得にもつながっていくのである。
今はブログというような便利なものもある。小規模の代理店などであればホームペー
ジの管理も大変なので、ブログを用いての情報開示でもいいと思う。
コンプライアンスや情報開示を「ねばならないもの」「営業を阻害するもの」と
捉えているうちは、どんなに多くの研修を重ね声を大にしてコンプライアンスの
重要性を叫んだとしても、法令違反事故はなくならないだろう。クレームも減少
しないだろう。
しかし、コンプライアンスや情報開示をマーケティングの戦略に組み込んで経営
の武器としてしまえば、これほど顧客の信頼を獲得できる良い方法はないのでは
ないか。それを会社・代理店の明確なUSPとして位置づけてしまえば他社との
差別化にも大きく寄与するのではないか。一人一人の営業パーソンのコンプライ
アンス意識の向上に期待するなどという抽象的なことではなく、組織の決意とし
てホームページ、パンフレット、セールスレターなどに具体的にコンプライアン
スの取組みを開示していけば必ず顧客は戻ってくるはずだ。
私は、このような取組みをする保険会社・代理店こそが、二十一世紀の保険業界
をリードしていくと信じてやまない。
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